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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2826号 判決 1975年3月27日

昭和四七年(ネ)第二、八二六号事件控訴人、同事件被控訴人、昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件被控訴人(第一審原告) 渡辺竹五郎

右訴訟代理人弁護士 豊島昭夫

同 小泉萬里夫

昭和四七年(ネ)第二、八二六号事件被控訴人、同事件控訴人(第一審被告) 片岡千枝子

昭和四七年(ネ)第二、八二六号事件被控訴人、同事件控訴人(第一審被告) 株式会社片岡化学研究所

右代表者代表取締役 片岡達夫

右両名訴訟代理人弁護士 伊東忠夫

同 小林正基

同 猪狩庸祐

小林正基訴訟復代理人弁護士 最首和雄

昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件控訴人、同第二、八二六号事件被控訴人(第一審被告) 甲野太郎

昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件控訴人、同第二、八二六号事件被控訴人(第一審被告) 有限会社甲野製作所

右代表者代表取締役 甲野太助

右両名訴訟代理人弁護士 横山正一

同 副聡彦

横山正一訴訟復代理人弁護士 上田弘毅

主文

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告らは第一審原告に対し各自金五五四万〇、三九三円および内金五一四万〇、三九三円に対する昭和四一年一月二一日から、内金三五万円に対する昭和四二年一一月一九日から、内金五万円に対する本判決確定の日から、各支払いずみまで年五分の金員を支払うべし。

第一審被告甲野太郎および第一審被告有限会社甲野製作所は第一審原告に対しさらに各自金一二七万五、九六九円およびこれに対する昭和四一年一月二一日から支払いずみまで年五分の金員を支払うべし。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

第一審被告片岡千枝子および第一審被告株式会社片岡化学研究所の控訴をいずれも棄却する。

第一審被告甲野太郎および第一審被告有限会社甲野製作所の控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告らの各負担とする。

この判決は主文第二、第三、第五項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一審原告代理人は、昭和四七年(ネ)第二、八二六号事件につき、当審において請求を拡張し、「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審被告らはさらに各自第一審原告に対し、金三四五万八、七六五円および内金二七五万八、七六五円に対する昭和四一年一月二八日から、内金三五万円に対する昭和四二年一〇月一一日から、内金三五万円に対する本判決確定の日から各支払いずみまで各年五分の金員を支払うべし。第一審被告片岡千枝子および第一審被告株式会社片岡化学研究所はさらに各自第一審原告に対し金一七九万四、二八八円およびこれに対する昭和四一年一月二八日から支払いずみまで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決を求め、第一審被告片岡千枝子、同株式会社片岡化学研究所の第一審原告に対する控訴棄却の判決を求め、昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件につき控訴棄却の判決を求めた。第一審被告片岡千枝子、同株式会社片岡化学研究所代理人は、昭和四七年(ネ)第二、八二六号事件につき「原判決中第一審被告片岡千枝子、同株式会社片岡化学研究所敗訴部分を取消す。第一審原告の右第一審被告らに対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、第一審原告の控訴棄却の判決を求めた。第一審被告甲野太郎、同有限会社甲野製作所は、昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件につき、「原判決中第一審被告甲野太郎、同有限会社甲野製作所敗訴部分を取消す。第一審原告の右第一審被告らに対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、昭和四七年(ネ)第二、七四〇号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(第一審原告の主張)

一、亡渡辺哲夫の逸失利益を金一、六二二万八、四五〇円と訂正する。すなわち渡辺哲夫は本件事故当時、満一八才であり同人の就労可能年数は少なめにみても四六年間であるところ昭和四一年度ないし昭和四四年度の男子労働者年令別平均給与額は別表(一)のとおり(第一九回日本統計年鑑三九六頁ないし三九七頁による)であり、昭和四五年度ないし昭和四七年度の男子労働者の年令別平均給与額は別表(二)のとおり(昭和四五年度労働省労働統計調査部編集賃金センサス第一巻)また昭和四八年度以降就労可能な満六五才に至るまでの男子労働者の年令別平均給与額は別表(三)のとおり(昭和四八年労働省統計情報部編集)であるから同人も年代・年令に応じこれと同額の収入を得たものと推認できる。そして同人の生活費を収入の二分の一として控除し、これにホフマン式計算法により各年毎に年五分の割合による中間利息を控除すると得べかりし利益の現在値は別表(四)のとおり合計金一、六二二万八、四五〇円となる。

二、第一審原告に対する慰藉料を金一五〇万円と訂正する。

すなわち第一審原告は将来自己を扶養するものとして期待していた長男の渡辺哲夫を本件事故により喪ったもので、その精神的苦痛も大きく第一審原告の受けた精神的損害は金一五〇万円を下らない。

三、よって第一審原告は本件交通事故に関し、渡辺哲夫の得べかりし利益金一、六二二万八、四五〇円、同人に対する慰藉料金一五〇万円、合計金一、七七二万八、四五〇円の損害賠償請求権を同人の死亡した昭和四一年一月二七日相続し、他に病院、葬儀費等金二二万六、九九二円、第一審原告に対する慰藉料金一五〇万円、弁護士費用金七〇万円合計金二、〇一五万五、四四二円の損害を蒙った。このうち、本件事故発生態様に基づく過失相殺分、その他の事情を考慮して金九二四万一、六三〇円を本件損害賠償請求の全額債権として請求する。

四、第一審原告は自動車損害賠償責任保険より金二一二万五、二六八円の支払いを受けたので、弁護士費用(着手金・報酬金)を除く各損害金へ按分比例により弁済充当したので第一審被告ら四名に対しその余の未払損害金七一一万六、三六二円および内金六四一万六、三六二円(第一審原告が渡辺哲夫より相続した逸失利益・慰藉料・第一審原告固有の慰藉料請求金合計額)に対する昭和四一年一月二八日から、内金三五万円(弁護士費用着手金)に対する昭和四二年一〇月一一日から内金三五万円(弁護士報酬金)に対する本裁判確定の日から各支払いずみまで年五分の遅延損害金の支払いを請求する。

五、渡辺哲夫は積極的に甲野に依頼して本件自動二輪車に同乗したものではない。すなわち、哲夫は本件事故当時風邪気味であったため家で休んでいたところ第一審被告甲野太郎が右同日の正午頃哲夫を何処かへ連れ出そうとし右二輪車を運転し来宅した。これに対し哲夫は風邪気味であることを理由に右申出を断ったところ、第一審被告太郎は右二輪車に同乗するようにと執拗にすすめたので不本意ながら同乗するに至ったものであり、しかも同乗に際して哲夫は第一審被告太郎に対し繰り返し安全運転を要請していた。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、当裁判所は当審における弁論および証拠調の結果を斟酌しさらに審究した結果、第一審原告の本訴請求は、第一審被告甲野太郎および同有限会社甲野製作所に対し金七五一万六、三六二円、第一審被告片岡千枝子および同株式会社片岡化学研究所に対して金六〇五万六、九〇八円を求める限度において正当として認容すべきものと判断するものであって、その理由は次に附加訂正するほか原判決理由中の説示と同一であるからこれを引用する(ただし、原判決二四枚目裏八行目に「記憶換起」とあるのは「記憶喚起」の誤記と認められるのでそのように訂正する)。

二、≪証拠省略≫によれば、次のとおり認められる。すなわち、太郎は当時〇〇〇高校第三学年在学中であったが、本件事故当日は午前一一時頃学校へ行く目的で外出し、本件自動二輪車を渡辺哲夫方へ預けるべく同人の家へ寄ったところ、たまたま太郎と哲夫双方の友人である山田某のことに話がおよび、哲夫が学校へ行って右山田に会いたいといい出し、電車に乗るより太郎の自動二輪車で行こうといって、玄関先に置いてあった右二輪車にまたがり一緒に連れて行ってほしい旨申し向け、太郎がガソリンが足りないからとことわったところ、哲夫はガソリン代は自分が負担するからというので、太郎は右申出に応じ、哲夫を同乗させるに至った。右のとおり認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。一般に自動二輪車は運転が不安定であるうえ、その運転者が運転未熟であるかまたは若年である場合に同乗すれば一層運転は不安定となり、しかも自動車等の往来のはげしい道路を運転する場合は、事故発生の危険性がきわめて高いことは容易に予想しうるところであるから、右のような場合には同乗を避け事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるというべきところ、右に認定の事実に前記引用の原判決の認定にかかる本件事故に至るまでの経過をあわせれば、本件の場合哲夫が太郎の運転する自動二輪車に同乗したこと自体に過失があったものと判断するのを相当とする。

三、原判決三〇枚目表一〇行目から同裏三行目までを削除し「≪証拠省略≫によれば昭和四五年度ないし昭和四七年度の男子労働者の年令別平均給与額は、別表(二)のとおりであり、昭和四八年度以降就労可能な満六三才に至るまでの男子労働者の年令別平均給与額は別表第(五)(一審原告主張の別表(三)の最下欄年令60―64才を60―63才と訂正したもの)のとおりであるから、渡辺哲夫も年令に応じほぼこれと同額の収入を得たであろうことが推定される。そして、同人の生活費を収入の二分の一とみるのを相当とするから、同人の逸失利益の現価をホフマン複式計算法に則り計算すれば別表(六)(第一審原告主張の別表(四)に誤算があるのでこれを訂正したもの)のとおりとなり、結局同人は本件事故により金一、六六八万七、一六二円の損害を蒙ったことになる。」を加入する。

原判決三一枚目表一行目「金七、二四四、四五一円」を「金一、八一八万七、一六二円」と訂正する。同裏二行目から三行目「金八、九七一、四四三円」を「金一、九九一万四、一五四円」と訂正する。同三二枚目表七行目「金五、三八二、八六五円」を「金一、一九四万八、四九二円」と、同八行目「金三、五八八、五七七円」を「金七九六万五、六六一円」と各訂正する。

原判決三二枚目表一〇行目以下末尾までを次のとおり訂正する。

≪証拠省略≫によれば第一審原告は本件訴訟提起に当り訴訟代理人に金七〇万円の報酬を支払うことを約し、内金三五万円はすでに支払ったことが認められるところ、本件訴訟の難易度、訴訟経過、訴訟活動および認容額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すれば本件弁護士費用は合計金四〇万円を相当し、右は第一審被告らが任意に支払いをせず不当に抗争した結果生じたものであるから、これを第一審原告の右損害に加算すべきものとする。しかして、第一審原告は弁護士費用も含めて前算定の過失相殺後の損害の範囲内である金九二四万一、六三〇円を本件損害賠償請求の全額債権として請求しており、弁護士費用は依然金七〇万円として計上していることは弁論の全趣旨から明らかであるが、弁護士費用は金四〇万円の限度で認めること右のとおりであるから差額三〇万円を控除し、第一審原告が自動車損害賠償責任保険により金二一二万五、二六八円を受領したことは第一審原告において自陳するところであるから、右金額を前記損害から控除する。

四、しからば、第一審原告は第一審被告太郎および同製作所に対しては金六八一万六、三六二円、第一審被告千枝子、同研究所に対しては金五五四万〇、三九三円の各損害賠償請求権を有するものというべく、第一審被告らは第一審原告に対し各自右金五五四万〇、三九三円および内金五一四万〇、三九三円に対する本件不法行為の日の翌日たること明らかな昭和四一年一月二一日から、内金三五万円(すでに支払った弁護士費用相当分)に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四二年一一月一九日から、内金五万円(弁護士費用残額相当分)に対する本判決確定の日から、各支払いずみまで年五分の遅延損害金を支払うべき義務があり、第一審被告太郎および同製作所は第一審原告に対し、さらに各自金一二七万五、九六九円およびこれに対する昭和四一年一月二一日から支払ずみまで右と同様の遅延損害金を支払うべき義務があるから、これを求める第一審原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の請求は理由がないものとして棄却すべきである。

よって、第一審原告の第一審被告ら四名に対する控訴は右の限度において正当として認容しその余を失当として棄却し、第一審被告千枝子、同研究所の第一審原告に対する控訴および第一審被告太郎および同製作所の第一審原告に対する控訴は失当であるからこれを棄却すべく、これと異なる原判決を右の趣旨に従い変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九六条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

<以下省略>

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